MAXIMUM!


俊美は自分のほっぺたが ぷぅ〜っと膨らんでしまうのを抑えられなかった。


そりゃ…「元気な晴一がいい」って言ったわよ!確かに、そう言ったわ!
だけど、何でインドのお土産が 香辛料の詰め合わせなのっ?!
どうせ、これで本格派カレーを作ってくれ…て事なんでしょ?作れと言われれば作りますよ。
料理は嫌いじゃないし、不得手でもないし。
料理の腕を信用してくれてるって事は、嬉しいわよ、とっても!
でも…お土産…少しは…すこ〜しは 期待してたのに・・・
 またしても すっかり自分のペースに巻き込もうとする晴一に いささか腹も立てていた。
 じゃあ、せっかくですから 本格派カレーにチャレンジしましょうか…


「じゃ、今度のオフの日は 一日、私にカレー作り、任せてくれる?
お買い物から つきあってくれるかしら?(そこで 無邪気にインドについて薀蓄をたれている、王子様?)」
「ホンマに?えぇよぉ!楽しみじゃのぅ〜本場のカレーを俊美と一緒に食べたいもんのぅ!」
「ん。じゃ、決まりね?プロデューサーは、私よ。晴一はアシスタントね?」
「ええよ〜〜〜名プロデュース、期待しとるけぇねぇ!」
…ホントに無邪気な笑顔!いっつも これで騙されちゃうのよね!

 


 平日の午前中とあって、近所のスーパーも そんなには混んでいない。
俊美の後ろから 嬉しそうにカートを押して晴一がついてくる。
そんな晴一を横目で見ながら 俊美は次から次へと カートの中へ品物を入れていった。
途端に晴一の目が大きく見開かれた。


 「あっ!うそっ!セロリはやめよ?」
 「ピーマン!?邪道じゃろ?カレーにピーマンて!」
 「ニンジンは…いらんよぉ…なぁ…俊美ぃ…」
 そう、この無邪気なマイペースの王子様は、人並みはずれた野菜嫌いだ。
カートの中身をいちいち口に出しては 俊美に懇願している。
 「今日は、私がプロデューサーだって、言ったはずだけどなぁ…
いいステージを作るためには いい縁の下の力持ちも必要なんでしょう?」


 これは晴一の痛いところをついたはずだ。私は知っているのだ。
マイペースの王子様は自分で口にしているよりも遥かに繊細だ。
こんな言い方をしたら 傷つくかもしれない。
怒っちゃうかな?と心配してみたが、晴一はまだ情けない顔でカートの中身をあれこれと詮索していた。


 「なぁ…俊美ぃ・・・肉…は?」そう言いながら けっこう値の張る牛肉を手にとった。
「あらっ?本場インドのカレーでしょ?牛肉はご法度よ!」
「別に…豚でも鶏でも いいんじゃけど…」視線を牛肉のパックに残したまま すごすごと俊美の後をついてくる。
 ちらっと俊美の顔を見ながら 別のものに手をだし、カートに入れるのを俊美は見逃さな
 かった。
 「晴一っ!それは、いらない!冷蔵庫にまだゴルゴンゾーラが残ってるわよ!」
 「俊美!のぅ…お願い!ブルーチーズの詰め合わせ・・・わし・・・これ、食いたい!」
    もうっ…お菓子をねだっている子供みたい!
    ここで折れちゃったら、いつもの晴一ペースになっちゃう!
    今日こそは 私の思う通りにさせてもらいますからね!
 「ダ〜メッ!今日のプロデューサーは?」
    この王子様はマイペースだが、自分の言ったことには責任を持つ事も知っている。
    滅多なことでは覆さない、頑固さも持ち合わせているのだ。
「…プロデューサーは……俊美……わしは…ただのアシスト……」
「はい。よくできました!」
 はぁぁぁ…わし、自分で作るて言いよればよかったわ…
 いくら本場のカレーて言うても、ここは日本じゃぞ!
 わし、日本人じゃもん。せめてチーズくらい…えぇじゃんか!
 でものぅ…俊美に任せるって言ってしもうたもんのぅ…


俊美の部屋では 俊美の後ろでキッチンをうろうろする晴一がいた。
鍋の中に何が入るか 心配で心配で仕方ないのだ。 
   はぁ!セロリ 入れるなや!
   頼むからっ!ニンジン、そんなに大きく切らんでくれ〜〜!
イチイチと口出ししそうになってしまう自分を 必死に押しとどめていた。
「もうっ!晴一ったら!うっとおしいから、座っててよ!」
晴一は仕方なく俊美の背中が見えるダイニングテーブルに座ったが、
フードプロセッサーに次々と入れられていくニオイのきつい野菜たちを絶望的な目で見ていた。
    ニンニクと玉ねぎは まぁ、許すけぇ…
    うわぁ〜〜〜今度はピーマンじゃ!それっ!入れんとこ?
    ああっ!もうっ!わし、何で禁煙するなんて宣言したんじゃ?
    タバコ吸いたい!
 晴一のイライラぶりは 度を増していく。
 キッチンには 次第に香ばしい香りが充満してくる。
 手際よく料理をこなす俊美の手つきは素晴らしいものだったし、香りも晴一の胃袋を刺激していた。
でも・・・肉ヌキじゃもんのぅ…


 やがて、食卓には本格的なカレーが並べられた。
 俊美はサーバーに入った温かい飲み物を 晴一の前に置いてある大きめのマグカップに注いだ。
 「のぅ…俊美ぃ…ビールとか・・・チーズとか・・・は・・・出ないんかのぅ?」
 「え?インドじゃ、チャイでしょ?飲むのは?」
 ふぅ〜〜〜と目を泳がせて 晴一はカレーに手をつけた。野菜ばかりのカレー…
 香辛料が効いていて、味はうまかった。野菜だけとは思えないほど、様々な味と香りのハーモニーも楽しめた。
しかし、相変わらずテンションの下がった顔をしている。
食べる事に対しても 貪欲な、マイペースの王子様。もう…勘弁してあげようかな?
 
俊美は黙って もう一度キッチンに向かい、別鍋で温めていたものを持って来た。
「晴一、ごめんね。ちょっと いじわるだったね」
そう言うと、別鍋で温めていたものを晴一の皿によそった。本当は、夕べから煮込んでおいた、牛肉を。
一瞬 俊美と皿を見比べた晴一は ぱぁ〜っと明るい顔になった。
「わっ!だから 俊美て好きじゃぁ!俊美ぃ〜〜!」
まだ何か言おうとする晴一を残したまま、もう一度 俊美はキッチンにとって返す。
ダイニングに戻ってきた俊美の手にあるのは さっき、晴一に買うなと言ったブルーチーズの詰め合わせと、
晴一と同い年の74ersのワインだった。これも、こっそり昨日のうちに用意していたものだった。
「晴一、無事に日本に帰ってきてくれて、ありがとう!本当は、それだけでよかったの。お帰りなさい。」


俊美っ!おまっ…お前っ……ホンマに名プロデューサーじゃの!


心底、びっくりした顔つきの晴一を見て、俊美は満足げだった。
しかし…
一瞬にしてニヤリと笑みをもらした晴一は 俊美の前のカレー皿を脇にどけて、自分のノートパソコンをそこに置いた。
「何っ?晴一?まだ 私、食べてないのに!ワインあけようよ!」
「ま、えぇから、えぇから…ワインはこの後じゃ!エンターキー、押してみぃ?」


俊美は何が起こるのかわからないまま、エンターキーを押した。


画面に表示されたのは、この名プロデューサーが手がけた、例の蝶の映像だった。
蝶は森に迷い込んだ後 男と女の姿に変わり、その手のひらから ぽわっと青と赤の光が生まれだす。
青と赤の光は次第に大きくなり、青の光はいつの間にか赤い光を包み込んでいた。
その重なった光が 真中から割れたかと思うと、そこからまた無数の蝶が飛び立ち、
やがて その蝶たちは 形を変えていき、文字を作り出した。

 


Loves All Ove  THE WORLD, Toshimi !!!
Happy  Birthday !!!


呆気にとられている俊美の両肩に 優しく晴一の手が置かれていた。
晴一の繊細な指先が 柔らかい俊美の髪をもてあそんでいる。
くちびるが震える。
いったい、いつからこんなものを用意してたの?
いつ、作ってたの?
インドに行く前には 作っていたって事よね?
カレーでおどおどしている晴一を見て してやったり…って
思っていたのに、
こんな…こんな…反則だよ!晴一!
ロマンチストなんだから!
やっぱり、あなたが一番のプロデューサーだね。
やっぱり、こんな自身たっぷりの晴一が、好き!

涙がこみあげている俊美の顔を 後ろからそっと覗きこんだ晴一は、
いつもの口端をちょこっと上げた笑いを浮かべて、
俊美のくちびるの上に そっと自分のくちびるを戯れさせにいった。

 

(* ̄∇ ̄*)エヘヘ
「CLUB UNDERWORLDER」の1000ヒットのキリ番で
masakoさんからお話とイラストをいただきました☆
ええでしょ?ええでしょ〜〜〜( ̄▽ ̄)
私からのリクは「おろおろしている晴一たんが見たいの♪」と言う考えようによっては無茶なリクだったのですがmasakoさんったら見事にリクに答えてくださって
素敵なお話を書いてくれました♪
もうっ肉抜きカレーを食べさせられる事になってプチパニックになっている晴一たんがかわあえぇ。。・:*:・( ̄∀ ̄ )。・:*:・ポワァァァン・
テンション下がっている姿がまたかわえぇ・:*:・( ̄∀ ̄ )。・:*:・ポワァァァン・
実際の私はお話の中の『俊美さん』みたいに料理は上手くないのですが
そこは考えない☆(え?
masakoさんの書く女の子ってシャキシャキっとしていてカッコ良くて好きですわ〜
私ももっと精進せねばっ

 



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