Title 『車内禁煙!』  Haruichi’s story

ふと、台所に行ってワシは唖然とした。
「な、なにやっとるん!?」
「…何が?」
平然と言う、彼女にワシは対応にひるむ。
どうやら彼女は、怒っているらしい。
駅まで車で迎えに行って、家に着いたらこの通りだ。
「何がって…」
彼女は台所にしゃがみこんで、わが愛犬スゴロクを眺めていた。
スゴロクといえば…彼女の与えたらしいご馳走に尻尾をちぎれんばかりに振っている。
「知っておろう?スゴロクには贅沢禁止って!!」
「そうだったかしら」
なっ…。
こ、こいつ…わかってやっておるな。
「言っておいたじゃろうがっ。正月と誕生日以外、スゴには缶詰は出さんって!!」
そういうと、彼女は冷たい視線をワシにちらりと送って平静に言い返す。
「い〜いじゃない。ご主人様だって、自分で決めたことも守らないで甘やかしてるんだから。ねぇ?スゴロクぅ?」
な、な、な…なんじゃてぇ?
「な、なんのことよ…」
「わからないの?」
「わかるかいっ!」
「そっ」
彼女は溜息を軽くつくと、すっと立ち上がってワシに近づいた。
「年末に…ファンに向かって「禁煙します」って公言したの、誰だったかしら?」
「…ワシだけど」
でも、ちょっと待てよ。
ワシ、マジでずっと吸うとらんけど。
自分で自分を省みても、思い当たる節がない。

「言いがかりだとしか思えん発言じゃぞっ。ワシ、吸うとらんぞっ」
「そうかもね」
まるで信じていないような目が、ふいにそれて彼女はワシを横切った。
段々、こっちだって腹が立ってくる。
言いがかりもいいところだ。
なんでワシが、してないことで怒られなきゃならん?
大体、ワシがもしホントに煙草一本吸ったところでこんなに怒られる道理もない。
「俊美っ!いい加減にせぇよ」
ワシは彼女を追って、リビングへ向かう。
彼女は、相変わらず不機嫌そうな様子でソファーに座って雑誌をめくり始める。
「今日は、ご飯作らないからね。私」
うぐっ。
今度はそう来たかっっ。
「…なんで、そんなに怒っておるん?」
理由がわからない以上、喧嘩も巧く成り立たない。
そう判断したワシは、苛立ちながらも下手に出てみた。
すると、彼女は雑誌から目を上げて、不意に悲しそうな表情を一瞬見せた。
でもそれは本当に一瞬で、また元の冷えた表情に戻る。
(……??)
その意味も、ワシには理解できないまま彼女は口を開いた。
「わからないなら、いい。でも、今日は買出しひとりで行って」
「なっ………」
ほっほ〜…。
理由も言わんで、そういう態度に出るんか。
わかったわい。
「俊美の言いたいことはわかった。ワシひとりで出かけるわ!」
そう言っても、彼女は無言でぺらぺらと雑誌をめくっている。
「じゃあのっ!!」
変わらぬ態度に、ワシは苛立ちながら車のキーを持って、家を出た。

あぁ!なんかむしゃくしゃするのぅ!!
地下の駐車場について車に乗り込むが、怒りが静まらない。
なんだって俊美は、いきなりあんな態度に出るんじゃ!!
なぁにが、「禁煙するって公言したの誰だったかしら?」よ。
そんなに言うなら、吸ってやる!!
そう思ってボックスから封印してあった煙草のケースを出して1本くわえる。
随分と吸ってなかったから、香りが懐かしい。
ライターを取り出して、クセで先に灰皿も引っ張り出した。
その瞬間、どきりとする。
「…あ、れ…??」
そこは空っぽのはずだった。
禁煙を誓ってから、ガソリンスタンドで吸殻を捨ててもらって…それ以来、開けてなかったのだから。
なのに…1本だけ、そこに吸殻が入っていた。
「何…?」
よくよく見ると、吸い口の方には口紅の跡が残っている。
「げっっっ!!」
ぞわぞわっと、身の毛がよだった。
俊美が怒り出した理由はこれだったのか。
あいつにしては珍しく遠まわしな怒り方だと思ったら。
ワシにこれを見せつけようとして、ワシが禁煙破ったっていちゃもんつけたなぁ?

でも、ちょっと待てよ、とワシは考える。
こんな形跡を残されるようなこと、あったっけ??
はっきりいって、最近のワシときたらクリーンな生活を送っている。
浮気もせんし、煙草も吸わんし、毎日のブランチは野菜嫌いのワシがカフェでオーガニックの野菜メニューときてる。
なんでこんなもんが、ここにあるん?
ワシは、じっくりと振り返る。
考えること5分。
「ああああ!!!」
ようやく答にたどり着く。
なんてことはない。
スタッフの女の子を駅まで送ってあげたことがあった。
恋愛の「レ」の字もないことだったから、勘定に入ってなかった。
そういえば、あの子はヘビースモーカーじゃったっけ。
思い出して、ワシは苦笑いをこぼす。
「…ったく、女の子ってのは…」
勝手に形跡を残すわ、知らないうちに勘ぐるわ。
30年近く生きてきたのに、まだまだ女の子のことはよく解らん。
もしかすると、一生解らんかもしれん。
そんなことを思いながら、ワシはライターとまだ吸っていないタバコをまた元に仕舞いこんだ。
解れば、話は早い。
拗ねた彼女の機嫌を直して、2人で買い物に行こう。

「俊美!」
スグに上に戻って、リビングに着くとこちらを見ないで急いで涙を拭く彼女がいた。
ワシは、思わず顔がゆるんだ。
「な、何よ…もぅ戻ってきたの?」
取り繕うように、怒った声を出す彼女をワシはからかうように覗き込んだ。
「泣いておったじゃろ?」
ようやく彼女と目が合うと、彼女は困ったような表情になる。
まだ、涙の跡が残ったままだ。
「て、テレビに感動しちゃったのよ」
ちらりとテレビを見るとテレフォンショッピングである。
「ふぅ〜ん。テレフォンショッピングが泣けるほど感動したんか〜」
笑いながらからかうように言うと、彼女はまた機嫌を損ねたような表情を見せる。
「私…もぅ帰るわ!」
「ちょ、ちょっと待てって!!ごめんって!」
慌てて引き止めるように彼女の両肩を掴んでそのままソファーに戻させる。
「な、なによ」
「ちゃんと…説明するから」
そう言って、ワシがゆっくりと駐車場で思ったことを打ち明けると…ようやく彼女から疑惑の色が消えていった。
「ただ…それだけ?」
「おぅ!それだけじゃっ!」
拍子抜けしたように彼女はまた涙腺をゆるませる。
「あぁ〜…また泣くぅ〜」
「だって…」
そういいながらも、ワシは内心嬉しかったりして。
その涙を親指ですくってやる。
「晴一…ごめんね?勝手に勘ぐって怒ったりして」
「解ってくれればええんよ。ご飯も作ってくれるじゃろ?」
「うん」
「買い物も一緒に行ってくれるよの?」
「うん」
ワシも彼女もようやく唇に笑みが浮かぶ。
仲直り完了というわけだ。

「でも晴一…」
「ん?」
「買い物は、カー用品店から行ってくれる?」
「えぇ?」
「買いたいものがあるの」
「??何を?」
すると彼女がにっこりと笑って指で四角を作って見せた。
「『車内禁煙』のステッカー」
「ははは…」
ワシは、その笑顔の意味に軽く空笑いを漏らした。

可愛い顔して、怖いところあるんだもんなぁ。
…やっぱり女の子は永遠の謎かもしれん。


<2004.05.08UP>
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「すごろくとうたた寝。」様から許可を貰って強奪してきたお話ですvv
そこ、脅迫と言わない...
ああん☆かわえぇ〜話ですわ〜
あのすねっぷりがいいですわ〜
そんでもって晴一たんのなだめ方がまた..萌え( ̄▽ ̄)
私もこんなお話が書けるようになりたいなぁ。。。



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