『謎』

「あ〜あ。せっかく治ったと思ってたのに。」
小さくため息をつきながら、花は病院を出たあと、すぐ近くの薬局に向った。

朝起きるとまだ少し体がだるかった。
たぶん、ゆうべの夜更かしのせいだ。
タマが帰ったのは、結局深夜になっていった。
熱を測るとまた微熱が出ていた。
けれど、大阪の病院で貰っていた薬はもう全部飲んでしまっていた。
先週は有給まで使って休んだ後だから、週明け早々もう仕事を休むわけにはいかない。
そういうわけで、外回りの空いた時間をうまく使って、病院へ寄ってきたところだった。

もうそろそろ、お昼時だ。
早く薬貰ってお昼ごはん食べて戻らないと・・・
貰った処方箋を左手でピラピラ振り回しながら、花は自動ドアの前に立った。
花は中に入ると、ぐるりと見渡した。
待っている人が2人ほどいるくらいで、すいていた。
カウンターの中には、白衣を着た3人の薬剤師さんがゆったりと応対している。
花は処方箋をカウンターの上に差し出すと、ベンチに腰掛けた。
待っている間、テキパキと立ち働く薬剤師さん達の姿を花は目で追った。

白衣を着てる女の人って、かっこいいな〜。
ほら、あの人なんてテキパキ指示出しながら、手はしっかり自分の仕事してるしさ。
なんか、ドラマの中の女医さんみたいやん。
私なんかと大違いやわ〜。かっこいい〜〜。
ホント、憧れるよね〜〜。

空はカウンターに背中を向けると、小さくあくびをした。
ゆうべはまた晴一が家に遊びに来ていたのだ。
先週は2人でいる時間が多くて、空は嬉しかったのだけど・・・

あ〜ん。やっぱり休み明けは忙しくて嫌いよ〜〜。
昨日も遅かったし、それに今晩もかも・・・うふふ。それにしても、ああ、眠い。
でも後もう少しでお昼だし。もうちょっとがんばろっと。
えっと、次の患者さんは、ビタミン剤と・・・


少し待つと、自分の名前が呼ばれた。
さっきの女性の薬剤師さんがニッコリ笑いながら、カウンターの前に来るように促してくれた。
「お待たせいたしました。どうぞ、こちらにお座りください。」
「はい。」花も椅子に腰掛けた。
「こちらに名前と住所をお書きください。」
出された用紙に、言われたとおりに記入した。
「・・・吉岡花さんですね?ではお薬の説明をしますね。」
空は手に持った数種類の薬をカウンターに並べると、目の前の患者の顔を見た。

あら?この人確か・・・あ〜〜〜!!!この間の大阪のイベントの人やんっ!!
うっそ〜〜!!こんなところで会うなんて!!世間って狭いわ〜〜。
どうしよう〜〜。声をかけてもいいのかな〜〜?

「・・・以上です。なにか質問あります?」
「いいえ、大丈夫です〜。どうもありがとうございました。」
すぐにひととおり説明が済んだので、花は椅子から立ち上がろうとした。
「あ、ちょっと待って。・・・私が質問していい?」
目の前の薬剤師さんはまだ花の顔をじっと見ている。
「・・・はい?・・・何ですか?」
花が怪訝そうな顔をしていると、薬剤師さん・・・名札には「中野」って書いてある・・・がニッコリ微笑んだ。
「あ、ごめんなさい。・・・あの、ちょっと聞いてもいいです?
あなた、先週大阪城ホールであったイベントに行かれてましたよね?」
「・・・え??・・はい、行きましたけど??」
「あ、ごめんなさいね。びっくりさせてしまって。実は私、あなたをロビーでお見かけしてるんですよっ。
ポルノのライブが終わった後・・・あの時私もロビーにいたんです。
具合悪そうにしてたでしょ?風邪だったんですね。
あの後もずっと気になってて・・・これ、職業病なんですけどね。それにしても、びっくりしたわ〜。」
一気にまくし立てる彼女に、花は何て返事をしていいか分からなくて、困ってしまった。
けれどすぐに、嬉しくなって笑顔で答えた。
「そうなんですかぁ〜〜。心配していただいてたなんて、どうもありがとうございます。
私もびっくりしました。へぇ〜〜、そうなんやぁ〜。」

「ホントね〜。・・・あなたも、ポルノがお目当てだったの?」
空はちょっとドギマギしながら、聞いてみた。
晴一のファンの人かしら?

「え?・・・まぁ・・はい、そうです。
あれ?あなたも、っていうことは、薬剤師さんもですか〜〜?」
べつに気にする事もないのに、一瞬タマの顔が頭に浮かんだ。
この人、タマ君のファンだったらどうしよ〜。

「ふふ・・あら〜、一緒だったのね。
そうそう、あの時一緒だった人とも帰りの新幹線で、となりになったのよ、私。
ホントにすごい偶然やわ〜〜・・・あ、私ったら仕事中なのに、おしゃべりしすぎやわ。
それに、引き止めちゃってゴメンナサイね。体調悪いのに。それに急いでるんでしょ?
あの、私中野空っていいます。・・・これ、名刺お渡ししときますね。何かあったら、連絡して頂戴?
吉岡花さん・・・花さんね?じゃあ、お大事にしてくださいね。」
空は早口で、それだけ伝えると、椅子から立ち上がり別の患者の応対に向った。
花は返事をする間も与えられずに、その場所に置いてきぼりになってしまった。
けれどすぐに我に返り、受け取った薬を鞄にしまうとドアの方へと向きを変えた。
貰った名刺はまだ手に持っていた。
外へ出る前にもう一度カウンターを見ると、彼女と目が合った。
年配の男性患者さんの話を聞いていたが、花に気が付くと笑顔になって手を振ってくれた。
花もニッコリ笑って、軽く会釈してから外に出た。

あぁ、びっくりした〜!!
まさかこんなところで、イベントに参加した人と会うなんて!!しかもポルノのファンやったし〜。
それに、あの薬剤師さん、私を介抱してくれた人にも会ったって!?
なんか、すごい偶然やんね、これって。びっくりしちゃった。
そうだ・・・誰のファンなのか聞くの忘れちゃった。・・・ま、いいか〜。
あ、もうこんな時間!!さ、急がないと!!
そうだ、名刺持ったままやったわ・・・中野さんか〜。
へぇ〜、空さんて言うんや。かわいい名前やわ〜。
・・・ここの薬局、覚えておこうっと。

花はカードケースの中にその名刺を大事に収め、ポケットにしまった。
そして急ぎ足で来た道を戻ろうと、歩き出した。


ふぅ〜〜!!やっとひと段落着いたわ〜〜。さ、そろそろお昼食べに行こうかな。
それにしてもさっきの人、早く元気になるといいな〜。
それに、もう少しおしゃべりしたかったわ。・・・ちょっと残念。
また、ここに来てくれたら嬉しいんだけど。って、それダメじゃん。

そんなことを考えながら空はカウンターの外に出た。
さっきまで花が座っていた椅子の横を通り抜けようとした時、床に目が行った。

あれ?これ落し物?・・・さっきの、花さんの座ってたところじゃない。
あ、こんな事書いてある。・・・ふ〜ん、あの人タマちゃんのファンなんだ。
じゃあこれ、きっとお気に入りのはずよね〜。
どうしようかな〜。後で気が付いて取りに戻ってきてくれるかな?
とりあえず、私が預かっておこうかな。
それとも・・・あ!そうだ!!

空は、先程記入してもらった連絡先を確認しようと、もう一度引き返した。


「なぁ〜〜、空早くこっち来いやぁ〜。もうすぐメシ出来上がるぞっ!!」
「う〜ん、ちょっと待って。もう一回かけ直して見るから。・・・あら、やっぱり不在やわ。」
空もキッチンにやってきて、グラスやフォークを持ってテーブルに運ぶのを手伝う。
「さっきからどこに電話かけよるんなっ?」
フライパンを片手に、晴一が尋ねてくる。
フライパンの中のパスタソースの中に、手際よく茹で上げたパスタを移して行く。
「うん、今日薬局に来た患者さんにね・・・落し物を知らせてあげようと思って。」
「ふーん・・・でも、えらい親切じゃの?」
「あのねその人、この間の大阪のイベントで見かけた人やったのよぉ。
彼女もポルノのファンだったの。薬の説明をした後、少しおしゃべりしちゃった。
それでね、落し物はこれなのよ。お気に入りなんじゃないかな〜、きっと。
今日一日待ってたけど、取りには来なかったから・・・早く連絡着くといいんだけど。」
「へぇ〜〜。そうなんじゃ。」
テキパキとパスタを大皿に盛りつけながら、晴一は空の話に耳を傾けた。

焼きたてのパンとパスタで、楽しい夕食の時間が始まる。
そして、食後の会話を楽しんでいると、ふいに2人の視線は自然とそこへ向った。
テーブルの端に置いた空の携帯電話と忘れ物の品。

晴一はひょい、とそれをつまみ上げた。
ラベルシールに書いてあるタイトルを、口を尖らせながら眺めている。
「へぇ〜〜、その子タマのファンじゃったんじゃ。へぇ〜〜。」
「ふふふ。そうみたい。かわいい感じの子やったわ。ちょっと関西訛りだったかも。
よかった、晴一のファンの人じゃなくて。・・・さ、後でもう一度電話してみようかな。」
「ほら〜、返してよぉ。」
空は晴一の手からそれを受け取ると、大事そうにテーブルの上に置きなおした。

空は携帯を片手に隣の部屋に行ってしまった。
晴一はテーブルに置いたままのそれを、もう一度取り上げた。

ふ〜〜ん・・・なんかこれ・・・見た事あるんよのぉ。
ワシらがいつも使ってるのと同じじゃんか。
それに、このタイトルどういうことなん??これ・・・どういう意味なん??

気になったら確かめずにはいられない。
キッチンの隅に置いた鞄の中からMDウォークマンをひっぱりだすと、晴一はそれをセットした。
ヘッドフォンを耳に取り付ける。
そして、再生のスイッチを押した。

「あぁーーーー!!!!」


晴一の声にびっくりして空が戻ってきた。
「何??どうしたのよぉ??晴一、どうしたの??お腹痛いの??」
空は慌てて晴一の傍に駆け寄った。
「・・・いや。なんでもないけぇ。何でも・・・ない。」
晴一は携帯を掴むと、突然立ち上がって外へ出て行ってしまった。
空は狐につままれたように、呆然と立ち尽くしたままだった。

「・・・晴一??・・あれ?さっきのMDは??」
訳が分からずに、しばらくの間空はオロオロするばかりだった。


END

どうですか?
この小説はたえまるとセツさんからうちのHPの3周年のお祝いに書いてくれたものです。
そして802イベント以来続いている企画SSの一つでもありまする
今回は遂に花ちゃんと空が出会ってしまいましたのん( ̄▽ ̄)
なんか妙にフレンドリーな空。。。この子って。。。
花ちゃんをビビらせてどうするよ...( = =) トオイメ
たえまるが書いてくれた空はなんだか仕事がバリバリ出来る女っぽいですねぇ
ホントの設定ではダメ子ちゃんなんだけど〜 てへっ☆
そしてセツさんのイラストではえっらくかわいく空が書かれていてなんだか照れてしまったり壁|▽//)ゝ
こんなかわいく書いてもらってええのでしょうか?
そしてそして
晴一たんの表情がっ(;>ω<)/
あの疑問符だらけの表情がツボでし。。。



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