月の光

 

今日は久しぶりに小夜に会える
長いオフも終わってイベントのリハやレコーディングに追われる日々
小夜にもオフの時程会えなくなってしまった
小夜は何も文句も愚痴も言わない
「寂しい」の一言さえも言った事はない
本当は寂しくてたまらないのではないかと思うんじゃけど...
チャイムの音が聞こえる
小夜が来たようだ...

「晴一くん、ごめんね。仕事が遅くなっちゃって...」
「わしはかまわんよ。電話を入れてくれれば迎えに行ったのに」
「そんなの...晴一くんの迷惑になっちゃうじゃない」
「だから、わしはかまわんていうとるじゃろ!」

もう少しわしに我がままを言ってくれたらいいのに...
そんなわしの心を知ってか知らずか
小夜はいつもの寂しそうな笑みを浮かべて言った

「だって..一緒にいる所を芸能リポーターに見つかったら困るでしょ?
晴一くんはファンの女の子達に歌だけじゃなくて夢も与えているんだから
私なんかと一緒に入る所をすっぱ抜かれたら..その子達ががっかりするわ」
「それは...」

残念ながら小夜の言っている事は嘘ではない
最近は小中学生のファンも増えて来て
その中の何割かはわしらを理想化しているらしい
ファンの存在は確かに大切じゃけど..

「今はまだ外の世界に向けて『私は晴一くんの彼女なの』って言う事は出来ないけど
いつかはファンの女の子達に納得させるようないい女になってみせるわ
それまでは絶対に表には出ないつもり...それまでは... 」

人から隠れるように付き合っていくのはどんなに辛いだろう
泣きたい事もあるだろうに
彼女はいつも寂しげに微笑むだけ...
わしの方が年上のはずなのに
いつも彼女に頼りっぱなしなんじゃ

「ごめん、小夜」
「な〜にあやまってるの?今日の晴一くん何だか変よ?」
「そうかのぅ?」
「そうだよぅ...あ、晩ご飯の用意するからもう少し待っててね」

小夜が食事の用意をしている間
ふと窓の外を見るとそこには白い月
隠れるように身を寄せあっているわしらを見つめているような−白い月

「晴一くん、お待たせ...何見てるの?」
「あ..うん、月を見てた...」

わしの言葉を聞いて小夜も空を見上げる

「わぁ...怖いくらい綺麗な月」
「怖い?」
「ええ...全てを見透かされているみたいで怖い
できるなら黒く塗りつぶしてしまいたいかも 」
「わしと一緒におっても怖い?」
「え?...晴一くんと一緒にいれば怖くないわ。」
「今のわしらは月明かりの下で寄り添っているのがふさわしいかもな」
「ふふ...そうかも」

 

…白く輝く満月の下恋人達の夜は更けてゆく

 

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