『the mayer of simpleton』


「わし、ちょっと出かけるけぇ!3時間後には戻るわ」

棚瀬とメンバーにそう言い残してあの店に向かう

っと...忘れとった!のゆちゃんに連絡取らんと!
それと...今日こそ...!

昭仁が大急ぎで店に駆け込むと
店の奥でカフェオレを前に席に掛けていたのゆりが
ぴょこんと飛び上がるように立ち上がった

「の、のゆちゃん...待った?」
「いえ、さっき来た所ですから。あの...昭仁さん?」
「ん?なん?」
「もしかして、ずっと走ってきたんですか?大丈夫?」
「あ、ああ。わしは普段から体は鍛えてるけぇ、大丈夫
あの...ちょっと場所変えてもえぇかのぅ?」
「...?いいですよ」

店を出てほど近い場所にある公園に
初夏の風が心地よく吹いている中
ベンチに腰をかける2人

「のゆちゃん。試験に受かったんじゃろ?!おめでとう!」
「ありがとうございます。あの...今までありがとうございました」
「どうしたん?急に改まって」
「あの...いつも忙しいのに私の為に時間を作って貰って...
いつも応援して貰えてうれしかったです。
わ..私も新しい仕事も決まったし、もう会う事もないと思うので...あの...」
「ま、待って!もう会う事がないって...どういう事?!」
「だって...」
「のゆちゃん、わしと会うの迷惑なん?」
「そっ、そんな事ないっ!ただ...」

そういったきり下を向いてしまったのゆりの様子を心配そうに覗き込む昭仁

「ただ...何なん?」
「ただ...昭仁さん、いつも忙しいのに...
私の為に貴重な自分の時間を使ってくれるのが申し訳なくて...」
「申し訳ない?なんで?わしはのゆちゃんの事が好きで...って..あっ!」

昭仁の思い掛けない言葉に思わず顔をあげるのゆり

...しまった!今日こそのゆちゃんに告白するつもりじゃったけど
こんな勢いだけでするつもりじゃなかったのに...あああ...

「..あの?昭仁さん...『好き』って..?」

問いかけるのゆりの顔は赤く染まって

「あああ。のゆちゃん、ちょっとタンマ!わし、ちょっと落ち着かんと」

そう言って深呼吸をして気を落ち着かせようとしてみる昭仁

「...よし!大丈夫じゃ!」

そして改めてのゆりの方を真剣な表情で見て話し掛けた

「のゆちゃん、聞いてくれるかのぅ?
わしはそんな難しい事やキザな事はよう言わんけど
1つだけ...これだけは確実に言えるんじゃ
...わしは、のゆちゃんの事が大好きだって事...」
「昭仁さん...」
「ごめん!急にこんな事ゆうて迷惑じゃったかのぅ?
でも、わし今日こそ、のゆちゃんに言おうと思っていたんよ」
「迷惑なんてそんな...わ、私も...」
「へっ?!」

驚いて目が点になっている昭仁
真っ赤になりながらも言葉を続けるのゆり

「私も...昭仁さんが..」
「ほ、ほんまか?!のゆちゃん?!」

昭仁の問いかけに2度、3度とうなずくのゆり
その意味が頭の中にしみ込んで行き、感極まった昭仁はのゆりを抱き寄せた

「よかった〜!断られたらどうしようとドキドキしてたんよ!
よかった...本当によかった...」
「あ、昭仁さん...く、苦しいです...」
「ご、ごめん..あんまりうれしかったもんで、つい...」

と言いながら慌てて体を離す昭仁

「のゆちゃんもこれからは遠慮せんと
わしに会いたい時は『会いたい』って言ってくれていいからの。
さっそくじゃけど、今度はいつ会おうかの...ってああっ!」
「どうしたんですか?!」
「せっかく...せっかく試験も終わって安心してのゆちゃんに会えると思っていたのに...
わしもうすぐツアーじゃん!」
「あ...っ!そうでしたね...」
「ああぁぁぁ..」

がっくりと肩を落す昭仁を見ておずおずと声をかけるのゆり

「昭仁さん」
「あああ〜〜ごめんな〜のゆちゃん〜」
「そんな、謝らなくてもいいです。だって昭仁さんの選んだお仕事じゃないですか
私は大丈夫ですから。直接会えなくても電話やメールがあるじゃないですか
だからそんな落ち込まないでくださいね」
「の、のゆちゃん...ありがとう!」

再びのゆりを抱き寄せようとしたその時
携帯の着信音が...

「あ〜もうっ!誰じゃ!こんな時に...はい?」
「あ、昭仁さん。そろそろ帰って来てくれますか?」
「なにっ?!まだ3時間は経ってないじゃろ?!」
「いや、思ったより早く準備が出来たので...じゃあ、急いで下さいね」
「うぉい!待てって...うっ、切れてもうた」

携帯を持ったままがっくりと肩を落す昭仁

「ごめん、のゆちゃん...わし、帰らないかんようになってしもうた...」
「昭仁さん、そんな落ち込まないで...メールしますから」
「ほんっと〜にごめん!また連絡するけぇ!」

そう言ってもう一度のゆりを一瞬抱き締めると
足早に公園から出て行く昭仁
そんな昭仁を見送ってからほぅっとため息をつきつつベンチに座り直すのゆり

「夢...じゃないよね...?」





2人の恋のお話はこうして幕を開けたのでした























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