「泡沫人」

 

...そろそろ今日もライブの終わる頃
今日もきっと盛り上がったんだろうな
...ハルイチくん、どうしてるだろ?

今年のライブツアーはかなりの長期になる
今度会えるのはまだまだずっと先の事

あなたと過ごす1日はあっという間に過ぎるのに
あなたのいない1日はこんなにも長い

今日は仕事は休み
いつも行くカフェに出かけても
話題の映画を見に行っても
街の賑わいの中に身を置いていても
ハルイチくんのいない休日なんて味気ない
こんな日が続くなんて..我慢できるのかな...

「電話なんてかけなくていいよぉ」

なんて言ってしまって...
バカだな...今さら後悔しても仕方ないのに

あなたは今何を考えてますか?
私の事を少しは思い出してくれてますか?
私は...あなたの事が恋しくて仕方ない
姿を見られないなら
せめて声が...聞きたい...

唐突に鳴る携帯の着信音
ハルイチくん....!

「...もしもし?弥生?」
「あ...ハルイチくん...」

受話器を持つ手が震えそうになる
思わずこみ上げてきた涙に震えそうになる声を必死でこらえる
ハルイチくん...

「打ち上げまでちょっとだけ時間あったけぇ電話したんじゃけど、元気しとる?」
「げ、元気よ。元気に決まってるじゃない。それより...」

久しぶりに聞くハルイチくんの声
本当は涙がでる程うれしいのに
つい心にもない事を言ってしまう。素直になれない私

「それより、電話なんてしなくていいって言ったじゃない。私は大丈夫だから。
だから...私の事を気にするより自分の体の心配をして。ね?
今回のツアーは長丁場なんだから、体を壊しちゃったら大変だもん」
「せっかく電話したのに、その言い種はないじゃろ?」

あ...怒らせちゃった
そんなつもりじゃなかったのに

「そんな事言うんじゃったら、もう電話切るで」

え?そんな...
もっと声を聞きたいのに...!

「ま、待って!もう少し...」

自分に正直になって
勇気を出して
さぁ、言わなきゃ

「もう少し..ハルイチくんの声が聞きたいから..切らないで」
「...へ?よう聞こえんのぅ」
「ハルイチくんの声が聞きたいから...」
「ん?よぅ聞こえんけぇもう一回」
「もうっ!聞こえてるんでしょ!意地悪」
「ばれてた?だって、久しぶりの電話なのに『電話なんてしなくていい』なんていうんじゃもん。わしだって傷付いたぞ」
「...ごめんなさい」
「ま、弥生も本音をいうたけぇ許す。ところで...」

と、そこで受話器の向こうからハルイチくんを呼ぶ声が聞こえてきた

「あっ..わし、もういかんと」
「えっ...」
「そんな声ださんと。ホテルに帰ったら電話掛けなおすけぇ」
「うん...待ってる」
「素直でよろしい。ちょっと遅くなるかもしれんけど待っとって」

 

待っているわ... 私の泡沫人

 

 

 

 



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