遠くて近い貴方

 

「...これから注意してくださいね。じゃあ、持ち場に戻って」
「はい。申し訳ありませんでした」

あ〜あ、またやっちゃった。。。
最近ちょっと疲れがたまって来てるからかなぁ
売場が変わって商品の事を覚え直すのが大変なんだもん
でもそれをミスの言い訳には出来ないものね
さて、もう少しで今日の仕事も終わるし
もう一頑張りしなくっちゃね

 

や〜っと仕事が終わった〜!
ホントは遊びに行きたい気もするけど
今日はまっすぐ帰って来ちゃった
昭仁は今日も来れないみたいだし早めに休もうかな?
。。。っと電話?

「もしもし?」
「もしもし〜昭仁じゃけど」
「あ、昭仁。どうしたの?」
「麻美が新しい職場に慣れてきたか心配での」
「え?心配で?..ありがとう。うれしいよ」

一瞬間が空いた後心配そうな昭仁の声

「なぁ、ホント大丈夫なんか?すごく疲れてるみたいじゃけど」
「 え?どうしてわかるの?疲れてるって」
「今日はすっごく疲れた声しとぅ」
「そ、そうかなぁ?自分じゃわかんないや」
「無理しとるんじゃないんか?」
「そんな事ないと思うけど...今日はちょっと失敗しちゃって...」
「それは疲れとるからじゃって。麻美は頑張り過ぎなんじゃ」
「うん...そうかも知れないね。ごめん」
「謝る事はないって」

そして短い沈黙の後、昭仁は小さくため息をついて

「あ〜あ、もどかしいのぅ」
「えっ?」
「だってそうじゃろ?声はこんなに近くに感じるのに
すぐ側に麻美を感じる事は出来るのに
どんなに心配していても抱き締めるどころか触れる事さえも出来ん
わしも仕事さえなければのぅ...
直ぐに側に駆けつけて麻美を抱き締めてやれるのに」
「...」
「のぅ?麻美...なに泣いとるん?!」
「あ...分かっちゃった?ごめん」
「そりゃ分かるって〜...で、なんで泣いとるん?わし悪い事言ったかの?」
「違う...違うの昭仁..私...うれしくて...その気持ちだけで充分だよ」
「麻美...」
「だって、こうして話をしていれば昭仁を感じる事ができるもの
触れる事は出来なくても昭仁の存在を感じる事ができるだけで元気が出て来るよ。私」
「...」
「その代わりね、今度会う時にはそれまで会えなかった分も抱き締めて
次に会うまでの分も抱き締めて...お願い」
「おうっ!止めてくれって言われるまで抱き締めてやるって!」
「うふふ...ありがと」

たとえ距離は離れていても
語り合う2人の心はいつもすぐ側に...

 

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