あなたの虜



「...あのねぇ...聞いてる?」
「ん〜〜〜もう、ワシ飲めん...」
「まったく...普通酔いつぶれた女の子を男の方が送るもんでしょうが〜
な〜んで私がキミを送って行かないといけない訳?」
「...」
「はぁ...どうしよう」

晴一クンと出会ったあの日からもうすぐ半年が過ぎようとしていた
何度か一緒にご飯を食べに行ったり飲みにいったり
お互いの家にも何回か遊びに行ったりもした
彼と会っている時は私は夢のような気分
だって、この間までは雲の上の手の届かない人だと思っていたから
会う度に彼は私をからかって楽しそうに笑ってる
まあ、私も負けてないんだけど。
お互いに刺激は受け合っている、いい関係のように思える
でも...でも...

晴一クンにとって私はどんな存在なのかな?

いつも口に出して聞いてみたい衝動には駆られるけど
答えを知るのが怖くていつも言葉を飲み込んでしまう
今の関係を壊したくないから、壊してしまうのが怖いから

「ねぇ?起きなさいよぅ。キミの家に着いたわよ」
「ん?うん...」
「もぅ!仕方ないわねぇ...」

いつもは酔っぱらっているって言っても自分で歩いて帰っているのに
今日はすっかり酔いつぶれてしまってる晴一クン
何かムシャクシャするような事でもあったのかな?
人に弱味を見せるようなタイプじゃないと思ってたんだけど...

「晴一クン、部屋のカギは?」
「...ん...」

ごそごそと取り出したカギを取り上げて部屋のカギを開け
晴一クンを引きずるようにして部屋の中に入る
四苦八苦しながら晴一クンの靴を脱がせてリビングのソファに寝かせてやっと一息
...っと、いけない
このまま寝かせてたら風邪ひいちゃうね
確かこっちが寝室だったっけ...毛布はどこかな...と、あった
そっと毛布をかけると

「のぅ...俊美ぃ」
「なに?」
「水...飲みたい」

流しで水を汲んでリビングに戻ると
晴一クンは眠り込んでしまっていた

「仕方ないなぁ」

脇のテーブルに水の入ったグラスをそっと置くと
ソファの前の床に直に座り込んで晴一クンの顔を覗き込む
眠っている晴一クンを見ているとまたあの疑問が頭をもたげる

「ねぇ...晴一クン。キミとって私は何なのかな?
...って眠り込んでいるキミに聞いても答えるはずないよね
きっと私の事は単なる飲み友達位にしか思ってないんだろうね
でも、でもね...私言ってもいいかな?
私はずっとキミの虜だって...
きっとキミには素敵な彼女がいるだろうから
そんな事面と向かって言われたらきっと迷惑だよね
だからキミこんな事言うのは今だけにしておくね
ただ...一回だけキスしていいかな?
そしたら、キミへの想いを断ち切るようにするから、ね? 」

囁きかけながらくしゃくしゃに乱れた髪に触れ
眠っている晴一クンの唇にそっと唇を寄せた...その時

「俊美ぃ?何しとん?」
「何って...あ、目が醒めたの?」
「なぁ〜何しようとしとったん?」
「あんまり熟睡してるから息してるのか心配になったのよぅ」
「ふ〜ん...ワシはてっきり...」
「てっきり...何よ」
「ワシを襲おうとしているのかと思うとったのに」
「ばっ...そんな訳ないじゃない!もうっ!酔いが醒めたんだったら私もう帰るわっ!」

内心の動揺を誤魔化すように怒ったふりをして立ち上がろうとしたら腕を掴まれて

「ちょ、ちょっと待って..もう一つだけえぇかな?」
「いいけど...何?」
「うとうとしとったらの、夢の中でなんかごにょごにょ聞こえて来たんよ
なんでも『私はずっとキミの虜だって』だの『面と向かって言われたらきっと迷惑だよね』だの..」
「そ、それは...夢!夢だって!私は何も言ってないもんっ!」

必死で打ち消して見るけど顔が赤くなって行くのが自分でもわかる
聞かれてたんだ...

「そんなムキになる事なかろ?別にワシからかおうなんて思うとらんし」
「じゃあ、何よ?」
「まあ、落ち着いてここに座って」

そう言いながら晴一クンはソファに座り直し
私もおどおどしながら晴一クンの隣に座った
そんな私を見て頭をかきながら

「う〜ん、実はのぅ...
今日は俊美に話をしたい事があって呼び出したんじゃけど
今日に限っていつまで経っても俊美来んかったじゃろ?
ワシイライラしたのと緊張したのとで飲み過ぎてのぅ
珍しく潰れてしもうて... 」
「...?緊張?」
「え〜と、つまり...俊美に告白しようと思っとったんじゃ!」
「え?え?それって...?!」
「つ・ま・り。ワシと付き合ってくれって事...ええじゃろ?」
「私で...私なんかでいいの?」
「ワシは俊美がいいの。もっと自分に自信持てや。で、どう?ええんじゃろ?」

うなずくだけの私を優しく抱き締めて囁きかける

「あと一つ頼みがあるんじゃけど...」
「なぁに?」
「ワシの事『晴一クン』ってクン付けはやめてくれん?
な〜んか子供扱いされてるみたいで嫌じゃけん」
「そんなものなの?...わかったわ、晴一く...じゃなくて晴一」
「よ〜し、良く出来ました。これはご褒美じゃ」

晴一はそう言うと私に口づけをして
そして...


















 



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